K10's Memorandum

いきなり登山が好きになりました

【時のない世界】南アルプスへ弾丸テント泊 (甲斐駒ケ岳編 9月2日)

体力には限界があるのだ

週の半ばに太平洋で台風発生のニュースが飛び込む。週末のテント泊は半ば諦めていた。いつだったか、太平洋側から日本列島に接近してきた台風が、西側に移動したかと思いきや、急遽方向転換して東へ北上し、相当な日数、登山家達の貴重な夏山登山計画を台無しにした。今回もその可能性があるのか?と思いながら、木曜日。テント泊の考案者「先輩」から、しつこく天気が回復傾向にある気がする、というメッセージを受ける。そして金曜日になると、台風が予想よりも東の進路をとったこともあり、土曜日午後から天候が急回復する予想になっているではないか。中止だろうと決めつけていたので準備などしていない。金曜日の仕事が終えると、一目散にテント泊、二日間の登山に必要な食糧や行動食、そして備品類を買いそろえる。こんなに慌てて準備したら、絶対忘れ物するだろうと思いながらもパッキングが終わったのが午後9時30分だった。

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甲斐駒ケ岳の独特の白さが印象的である

 

 

今回の計画

本文中でも触れるため、ここでは簡単に触れる。

目指す山は、南アルプス甲斐駒ケ岳仙丈ヶ岳。北沢峠でベースキャンプを張ることで、土日で両方の山に登ることが可能である。北沢峠へはアクセスが極めて限定的。JR甲府駅からの始発バスは4時半。当然、この始発バスに乗るためには、その時間に甲府駅にいなければならない。つまり、前泊必須である。金曜日夜に特急で甲府に移動し、この始発バスで北沢峠を目指すのであった。

 

猛烈に長いテント場までの道のり 

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広河原のバス停である。時刻は6時半すぎ。

パッキングを終え、すぐに家を飛び出して23時新宿発の特急かいじの最終に飛び乗る。新宿深夜発の特急もあるが、これは満席。仕方なく1本前の「かいじ」甲府へ。甲府に到着するのは0時20分、広河原行きの始発バスが4時半のため、4時間の待機時間。結局この間30分だけ仮眠しただけである。

甲府からの始発バスは、必ず全員座れる、という事前情報通り、座席はきちんと確保したが、広河原までバスで2時間という道のりは結構キツいものがある。何とか1時間ほどバスの中で寝ることが出来た。

 

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まずは当座の目的地北沢へ到着。広河原からバスを乗り換えて更に25分である。家を飛び出したのは22時、北沢峠へ到着が7時半頃。ここに辿り着くまで要した時間は9時間超。飛行機だったら東南アジアまで軽く行けてしまうだろう。登山をしない人から見たら、全く理解不能な時間配分である。

 

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北沢峠のバス停から歩くこと10分弱。

 

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小屋へ到着。ある意味で、ここまでの道のりが、今回のテント泊で最も過酷であったと言えなくもない... しかし、この小屋ではテント場、飲料水、トイレ、食糧にお土産も完備されており、ベースキャンプの場所として申し分なしである。

 

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小屋にテント場所代を支払い、テントを設営。きちんと整地されており、またペグ固定用の適度な大きさの石もいっぱいあり、設営作業はとても楽だった。ザックから、登山に不要なもの(着替え、食糧など)を取り出し、テント内に保管。身軽になった状態で登山開始となる。前回の鳳凰三山はテント場が山頂近くであったため、全ての荷物を担いで登ることとなったが、今回のテント泊はベースキャンプ型。同じテント泊でも、登山中に背負う重量が全く異なり、登山の部分だけを切り取れば、ベースキャンプ型は、日帰り登山と同じ状態で登ることになる。

 

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いよいよ出発。準備中、眠くてボーッとなる瞬間も合ったが、登山口にたったときは、興奮で眠気もどこかに吹き飛んでいた。

 

仙水峠への道のりは、美しいの一言

第1日目に目指す山は、甲斐駒ケ岳

北沢峠(あるいは長衛小屋)からは双児山を経由するルートか、仙水峠を経由する2つのルートがあり、後者を選択。スタートは9時近くだった。

 

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歩き始めてしばらくして、このルートの美しさに驚嘆する。が何て豊富なんだろうか。そして、何と言っても、ヒンヤリした空気。マイナスイオンという商業文句が一時期流行った気がするが、きっと、本物のマイナスイオンとはこういうものだろう。五感で「癒されてるぜ」って実感できるもので、「人工的」な何かとは全く正反対の存在だ。

 

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そして、午前中と言うことで、光も素敵。少しモヤっていることもあり、森全体が幻想的な光景となる。睡眠時間2時間半ということは、この時点では全く忘れている。

 

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写真にすると、何か感動が伝えられない。

もっと、目で感じた感動を表現できるようになりたいものである。

 

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歩き始めて30分、森の光景に溜息をつきながらシャッターを押していると、仙水山荘に到着する。ここでは、南アルプス天然水の水場がある。一杯頂いたが、やはり透明な味がする。なんだ、透明な味って。でも、透明な味なんです。持って帰りたい。

 

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小屋を通り過ぎてからも続く癒しの道。少し登った場所もあった気もするが、出発地点から仙水峠までの標高差は300Mもないため、極めてノンビリした道である。

 

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なぜか「キノコ」に興味を示し興奮気味の「先輩」とともに、癒しの道を進んで行くと、前方に「壁」のようなものが見えてきた。なんだこりゃ?

 

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岩の大群

 

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癒しの道が、突然岩の道に様変わりする。ガスもかかっていて、先ほどまでの幻想光景が一変してしまった。特に危険のない道なのだが、岩が結構動くので歩きづらい。

 

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ガスの向こうは青空だ。悪くない。

 

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仙水小屋から30分ほどで、仙水へ到着した。見ての通り、ガスガスで眺望はなし。負荷の少ない最初の1時間だったが、テント場までの長時間移動などもあり、体調が万全とは言い難いため、ここで小休止をした。

 

駒津峰までの直登

次のチェックポイントまで、地図上は1時間半のコースタイムである。地図を見ると、等高線に対して直角に登山道がある、つまり、急勾配一直線である。

 

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登る。

 

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まだ登る。

 

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30分だか40分、休む間もなく、ひたすら登る。これは長い。どこまで登るんだ!と思ったところで、突然視界が開ける。そして後を振り返ってビックリ。

 

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の上に出た!

一番遠く(左)の山の上が、チョコッと飛び出ている。地蔵岳オベリスクだ。

 

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右手には、本日のゴールの甲斐ケ岳の姿も見えてきた。まだまだ登らないと、あの頂上には届かないようだ。

 

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最後に左手に見えたが、明日登る予定の

 

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視界が開けたのは一瞬で、再び樹林帯。そして急登。

 

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5分ほど登り、ついに森林限界を突破したようだ。雰囲気が全く違う。

 

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後を振り返ると、北岳まで見える。そしてよく見ると...

 

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鳳凰三山の向こう側に、富士山も薄ら見える。

 

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何となく、この登りも終わりに近づいているようだ。

 

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駒津到着。1時間半の直登だったが、登りやすい感覚もあった。通常の登山であれば、「2,750M山頂!」ということで締めくくるのだが、今日の山はひと味違う。ここまでが前座である。

 

別世界への入口

駒津峰に到着後、再び小休憩となった。標高のせいもあるが、やはり疲労感あり。森林の癒しの道、そして雲海に包み込まれた鳳凰三山仙丈ヶ岳を見て元気づけられているのだが...

 

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駒津峰からは、甲斐駒ケ岳がドーンと見える。どうやら、その手前に、小さなピークがあるようだ。ここから1時間半かけて、向こう側の頂上に辿り着くことになる。

 

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小休憩後、いよいよピークハントへ出発。まずは、手前のピークを乗り越えねば。

 

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ところで、この山はどこから登るんだ?

歩き始めてからしばらくたって、甲斐駒ケ岳の全貌が見える場所まで来た時、率直に思ったことである。緑色の部分は凄い急登であり、白色の部分は通常の人間が登る場所とは到底思えない。

 

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とにかく、道に沿って尾根道を進む。写真を取り損ねてしまったが、駒津峰からのアプローチ序盤は、かなりのアップダウンのある岩場だったりして、慎重に進まないといけない場所もある。

 

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ようやく、甲斐駒ヶ岳山頂への入口に到着したようだ。

 

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通ってきた尾根道を振り返ると、このような感じである。真ん中に見える巨大な岩は、六方石と言うらしく、とてつもなくデカい。

 

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この標識までが、通常の登山道。ここから先は、全くの別世界となるのであった。

 

甲斐駒ケ岳山頂への砂と岩の世界

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標識を通過してからは、時が止まったかの様な「白い」部分の旅が始まる。明らかに緑の割合が急減して、岩と白い砂の世界が始まった。

 

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序盤の癒しの道、樹林帯とハイマツの直登、そして駒津峰からの尾根道とは、明らかに別物の世界である。

 

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そして、とっても勾配のキツイ道でもある。地蔵岳観音岳へのアプローチを想い出させる光景だが、その時よりも、もっと「世界の果て」感のある場所だ。

 

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振り返ると、もはや「どこが道ですか?」という状態である。

 

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ロープと踏み後のお陰でコースを外れる心配は少ないが、一体どこに向かっているのかがわからなくなる感覚に襲われる。

 

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息を切らしながら砂道を歩き続ける。上を見上げると、稜線っぽい領域が見えてきた。

 

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確かに稜線までもう少し。

 

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背後には意味不明な光景。雲がすごい。雲の遥か上で、岩と砂の世界を歩くというのは、とても不思議なものである。

 

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稜線。あの岩を超えればゴールが近い気がするが、標高や勾配のせいもあるのか、なかなかゴールが見えて来ない。時間の感覚も依然として変。

 

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しかし、この岩、思った以上に大きいではないか。

 

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岩を乗り越え、まだまだ稜線を歩き続ける。

 

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時間的な感覚が麻痺したのか、この稜線はとても長く感じた。「祠」のような人工物が見えた時、ようやくゴールが近いという実感を得る。

 

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甲斐ケ岳の山頂へ到着

登り始めから4時間ちょっと。登りのコースタイムとしては決して長くないが、寝不足と疲労もあって、とても長い時間歩いていた感覚に陥った。確か、駒津峰から山頂へは、今回辿った道とは別に「直登ルート」があったはずだが、そんな標識は全く気づかず。非常に余裕のない登りになってしまったのだ。

 

いっぱいいっぱいの下山

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甲斐駒ケ岳の山頂は晴れ渡っていた。しかし、周りは雲。標高の低い山、遠くの山は、すっぽりと雲に覆われてしまった。

 

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山頂では達成感と、雲の上にいることの高揚感でいっぱいだったが、流石に写真的には雲ばかりで楽しくない。山頂は無風状態だったため、ここでランチ休憩。そして、下山へと向かう。

 

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同じ道を下っていくのだが、下って初めて気づく勾配のキツさ。かなりの斜面であるが、雲、砂、岩の妙なコラボレーションで、高度感は全くなく、怖さもない。下山を開始すると、ガスがかってきてしまい、白い世界が一気に茶色がかって見えてくる。

 

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雲の上と雲の下の境界線が見える。。。そして、雲の下は暗い。登っていた時よりも、雲が上の方に上がってきたようだ。

 

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写真で見返すと、凄い下りの光景である。雪や氷があったら絶対に歩きたくない。雲の下に入ってからは、突然風が強くなり、ガスがかってくる。そして、昼食でお腹が満たされた影響か、突如激しい睡魔にも襲われる。エネルギー補給したはずなのに、思ったほど体力も回復せず。。。とりあえず、駒津峰まで戻らねば。

 

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登りの記述で、駒津峰と甲斐駒ヶ岳の間の尾根道はアップダウンがあると書いたが、帰り道は、どちらかというと登る場面が多い。体力が削られて行く感覚となる。

 

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よじ登る場所数カ所。登りのとき以上に、この尾根も長く感じた。

 

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駒津峰に戻ったが、ここも雲の中。小休憩後、テント場目指して一気に下る。

 

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体力的にこの下山はかなりキツく感じる。下山時の写真はほとんど残っていない。何とか無事、テント場に戻ったのは4時半くらいだったはず。最後の方は、樹林帯だったせいもあるが暗くなり始めていた。

 

最後に

甲斐駒ケ岳の核心部分は、岩と砂、そして青空と雲達により描かれた光景は、睡眠不足のせいもあったかもしれないが、時間失ったような錯覚に陥る。その不思議な感覚を持ちながら書いているので、この記事もどこか、淡々とした雰囲気に包まれてしまった。変な魔力を持った山のような気がしてならない。甲斐駒ケ岳の北沢峠からのルートは、コースタイムとしては7-8時間のコースで、急勾配や岩場などもあるが、全体として危険なところもほとんどなかった。

4時半に下山し、テント場でむさぼるように夕食を食べ、7時に就寝したのだが、相当疲れていたようで、あっという間に眠りに落ちたのであった。第2話へ続く。

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自業自得なのである(番外編)

仕事が終わってからの9時間超の移動時間、睡眠時間は2時間少々という状態での甲斐駒ケ岳登山。そりゃ体力的にはキツいのだが、実は...

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始発バスまで甲府駅で4時間も待機せねばならず、とりあえず時間潰しにということで、居酒屋に行ってしまったのであった。実際飲んだ量はジョッキ2杯程度だったので、アルコール量としては大したことはなかったのだが、寝袋やマットもあったので、素直にベンチで寝転んで体力回復に努めるべきだったと反省している。

 

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